3.風邪と怖いお兄ちゃん

ごほっ、ごほっ

今朝は朝から体調が悪い。

ああ〜〜、お兄ちゃんに怒られるんだろうなぁ〜。

最近、お兄ちゃんの言う事を半分聞いて半分流してるような感じだった。
ここ一ヶ月くらい、ちょっとした悪いこともしてるんだけど、お兄ちゃんに見つからずにいたのもあって、
ちょっと調子に乗っていたのかもしれない。

そういえば、昨日の夜も……。


「鞠依、いつまで起きてるんだ? いい加減寝ないと風邪引くぞ」
「うん、大丈夫〜 もう少ししたら寝る〜」
「髪も乾かさないで。風邪引いても知らないぞ」
「大丈夫だよ〜。お兄ちゃんは心配性だなぁ」

そういって笑う鞠依の言葉を聞いて、お兄ちゃんは仕方ないなぁ、というように軽くため息をついて、おやすみ、といって自分の部屋に戻っていった。


結局その後、「もう少ししたら」が「朝になったら」になっていた。

お風呂上りに、軽く髪を拭いただけで、あとは放って本を読むのに夢中になっていた。
それを読み終えると、自分も書いてみたくなって、書き出してしまったの。
そして、少し意識が飛びながらも、初めて書いた短編小説は明け方ごろに書き上げることができた。

まだ半乾きの髪は、もうすっかり冷え切っていた。手足もすっかり冷えて、そのまま机で眠ってしまったの。
ふと気がつくと、1時間くらい経っていて、すでに空は白けてきていた。ぼんやりと寒いなぁ〜なんて考えながらベッドに入ったんだ。

そして、しばらくしてお兄ちゃんが私の部屋に入ってきた。

「鞠依。いつまで寝てるんだ。いい加減に起きないと遅刻するぞ」

そういって鞠依の顔を覗き込むと、なんだか顔が赤い。

もしや…と思い、額に手を当てると、かなり熱い。

「鞠依。大丈夫か? 今体温計を持ってくるから、ちょっと待ってるんだよ」

そういって、お兄ちゃんは体温計を取りに行って、すぐに戻ってきた。
そして、鞠依に体温計を渡して、熱を測ると、38度3分もあった。

「鞠依。今日は学校はお休みしなさい。すぐ病院に行くから着替えて。一人で着替えられるね?」
「うん…」
「じゃあ着替えて待っているんだよ。すぐ来るから」

そういって、お兄ちゃんは部屋を出て行った。鞠依は、お兄ちゃんが出て行くと、
言われたとおり、私服に着替えてお兄ちゃんを待った。

数分後、お兄ちゃんが私服に着替えて鞠依の部屋に来た。

「鞠依。学校にも今日は休むって電話しておいたからね。オレも、今日は会社を休むから、ちゃんと治そうな」
「おにいちゃん、おやすみしたの? …ごめんね」
「いいんだよ。今は二人きりの家族なんだから。ほら、病院に行くよ」
「病院やだぁ…。……注射する?」
「どうかなぁ? その辺は、オレにはなんとも言えないなぁ」
「じゃあやだよぅ。注射嫌い〜〜〜」
「子供みたいなこと言ってないで。行かないとどこにも遊びに行けなくなるぞ。
せっかく今度の休みにどこかに行こうと思ってたのに」
「いくっ! それまでに風邪治すっ!」
「よし。じゃあ行くぞ」
「うんっ!」

病院で薬をもらって帰ってきてから、お兄ちゃんの言う事をちゃんと聞いて一日おとなしくしていたら、風邪はだいぶよくなった。
そして今日、お兄ちゃんは大事をとって学校を休ませてくれた。
治りかけが大事なんだから、ちゃんと家でおとなしくしてるように言って、仕事に行ったの。

お兄ちゃんがいなくなると、鞠依は急に退屈になって、ベッドで休まずに、起きて本を読んだり、ゲームをしたりしていた。
午前中のほとんどをそうやってすごし、午後になるとそれにも飽きてきた。
だいぶ体調もよくなって来たこともあって、ちょっと外に出掛けたの。

ずっと家の中にいるより、やっぱり外の空気の方が気持ちよくて、しばらく遊び歩いていた。
気がつくと、時間はもう午後5時。

やばい、そろそろ帰ってくるかもしれない。

そう思って、鞠依は家に戻ったの。
家に帰ると、お兄ちゃんが怖い顔で鞠依を迎えた。
「お、お兄ちゃん!」
「鞠依。どこに行ってたんだ。まだちゃんと治っていないのに、外に出るなんて…」
「お、お兄ちゃん、今日は早かったんだね…っ」
「ああ。鞠依が具合悪いからと思って、早めに帰ってきたんだよ。それなのに、帰ってきたら鞠依はいないし…。
……とりあえず、熱を測ってごらん。朝より顔色が悪くなってるよ」

言われるままに、熱を測る。すると、熱は朝は37度台だったものが、38度に逆戻り。

「38度5分…。最初よりあがってるじゃないか。…治りきっていないのに、外出なんかするからだよ」
「やはははは…。…ゴメンナサイ…」
「明日は1日ちゃんと寝てること。 起きてゲームなんかしたりしちゃダメだからね。ちゃんと風邪が治るまで、オレが預かっておく」
「えっ! そんなぁ〜〜…それは無理だよぅ〜〜」
「…これ以上オレを怒らせない方がいい。これでもかなり怒ってるんだ。今のうちに素直になった方が利口だと思うけどね」

そう言うお兄ちゃんの顔をみると、今までみたことがないくらい怖かった。

目の奥には怒りの炎が見える。