学校について、生徒用の玄関まで来ると、チャイムが鳴る。
あ〜〜ん、先生が来ちゃう〜! 急げ〜〜〜〜!!

鞠依は、教室まで全力疾走。教室の前で、先生に会ったけど、なんとか先生より先に教室に入ることができた。

「南野。もう少し早く来れるように頑張るのよ。今月、もう3度目よ」
「はぁ〜い」

注意されちゃった。明日から気をつけよ〜っと。


その日は、ほとんどのテストが返ってきた。
赤点は……。
1つと、ギリギリなのが1つ…。
あとは、なんとか平均点に納まった。

今日は夕食当番だから、早く帰らないといけないんだけど…帰りたくないなぁ〜〜〜…。

おも〜〜い気持ちになりつつも、家に帰る。

家に向かう足取りも、自然と重くなって、ついつい寄り道しちゃう。
家につく頃には、もう7時になっていて、部屋の明かりもついてる…。

――やばい。帰ってきてる…――

急いで部屋に戻ると、案の定、お兄ちゃんが夕食を作って待っていた。

「おかえり、鞠依。遅かったね」
「ごめんなさい、お兄ちゃん…」
「元気がないな。どうしたんだ?」
「うん…」

なかなか返事を返さない鞠依に、お兄ちゃんがちょっと心配そうに顔を覗き込んで、優しく口を開く。

「テスト、悪かったのか?」
「……」
「……しょうがないな。普段から勉強しないからだぞ」
「……ごめんなさい…」
「俺に謝っても仕方ないだろ? 謝るなら、自分に謝るんだね」
「…うん」
「まずはご飯を食べよう。あとのことはそれからだよ」

優しく頭を撫でてくれるお兄ちゃん。そして、今までより明るめの声で話しかけてくれる。

「今夜は鞠依の好きな煮込みハンバーグだよ。これで元気だしなよ」

 お兄ちゃんは優しい。鞠依が元気がないかもしれないと予想してるのか、そういう時に限って、
大好きな特製の煮込みハンバーグを作ってくれる。

一口を食べるまでは元気がなくても、食べるとすっかり元の鞠依に戻っちゃう。

……って、単純すぎだけど。たいていのことは、これで吹っ飛んじゃう♪

 食事の間は、テストのことは口にしないでくれるお兄ちゃん。

この後怒られるかもしれないと思うと、また暗い気持ちになっちゃうけど、
今はこの美味しい煮込みハンバーグを楽しむことが優先♪

美味しい煮込みハンバーグを堪能してしばらくお腹を休めたあと、お兄ちゃんが優しい口調で口を開く。

「鞠依。返ってきたテスト、見せてごらん」

ドキッ

「あ、それが…その…学校に忘れてきちゃって…」

 しどろもどろになりながら、なんとか見せないようにと思い、言い訳を探す。

「鞠依、嘘はよくないよ。鞠依は嘘をつくときはいつも視線が泳いでるんだから。下手に嘘をつくよりも、
見せてしまった方が楽になれると思うけど?」

 うう、見破られてる…。そんなニコニコ言われても、簡単に素直になれるわけないじゃない…。

「だ、だって…」
「嘘をつくなら、もっとうまい嘘をつくことだね。素直に見せられないってことは、俺を怒らせたいのかな?」
「……見せます…」

 そう言って、カバンの中から今日帰ってきたテストを取り出し、お兄ちゃんに見せる。

「鞠依」
「は、はい…」

 お兄ちゃんの真面目な声に、びくびくしながら返事をする。

……やっぱり、怒ってるのかな…。

「家でテスト勉強してなかった割に、よく頑張ったね。鞠依は理数系が苦手みたいだけど、他の教科はよく
頑張ってるじゃない。えらかったね」

 そう優しく言って、頭を撫でてくれるお兄ちゃん。

びくびくしていた分、安心してそれまでの緊張が緩んじゃう。

「ホント…? ほんとにそう思う?」

 それでもやっぱり少し不安で、お兄ちゃんに問いかける。

「うん、ホントだよ。ただ…」
「た、ただ…?」
「昨日言ったよね? 赤点一つにつき、お小遣い3分の1の減額だよって。残念だけど、約束だからね。
減額は覚悟してもらうよ」
「はぁい…」

 ふくれっ面で言う鞠依に、お兄ちゃんは苦笑して、頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。

 大好きなお兄ちゃん。

優しくて、でも怒ると怖いお兄ちゃん。

鞠依が赤点を取ってしまったことと、減額にされるのとで落ち込んでいると、お兄ちゃんが静かに口を開いた。

「鞠依。落ち込むことはないんだよ。オレは、鞠依がこれからまた頑張ってくれれば、それでいいから。
ほら、顔をあげてごらん」

 お兄ちゃんは鞠依の肩を抱いて顔を覗き込む。

鞠依が視線を上げると、お兄ちゃんはにっこりと優しく微笑んでくれていた。

「お兄ちゃん…ごめんなさい……」
「うん。もういいよ。ちゃんと反省したんだろ? その気持ちを忘れないようにね」
「はい」

そのあとは、昨日お兄ちゃんが言ったとおり、テストで間違っていたところを教えてもらった。

家庭教師をしていたこともあるせいか、お兄ちゃんの教え方はとても丁寧でわかりやすかった。

明日帰ってきてからも勉強を教えてくれることを約束して眠りにつく。


そして目を覚ますと、またいつもの朝が始まるのでした。


おわり